春によせて

 花はきれいだな、ベランダで花でも育てたいって花屋を眺める度に、でも花や木は一年のうちの短い期間しか咲かないものが多くて、そのために一年中育てるのもつまらないなぁって思って眺めただけで立ち去るのが常だったんだけど、いまふと気づいた。あ、でも桜の木って、やっぱり一年に少しの間しか咲かないけど、だからといって桜の木が公園や学校や並木道に植わりまくっているのをつまらないことだなんて一度も思ったことがない。
 春になり桜の花が咲いて、遠くからちかくから眺め、木の下に立ち、座り、知らない人と、家族と、仲間と、桜花に包まれるあの体験を、赤ちゃんのときから数えきれないくらいしているから?
 そんなふうに、本当のすばらしさを、意識していなかったとしても身に染みて気づけているのならば、またいくつであったって気づくことができたなら、花が咲く一瞬だけが生き物の価値だなんて考えず、そうでないほとんどの日々を無駄だとは思わず、逆に咲いていない日々のほうこそを大事に思い、共に生きているってこと生きたってこと自体に幸せを感じられるんだと思った。