生まれた当日

 結局朝まで、陣痛みたいなのは間隔も遠ざかり、不規則になり、助産師さんには、これだとまだ前駆陣痛だと言われてへこむ。うわさに聞いていた、まさにホテルのモーニングのような豪華な洋朝食を食べてはしゃぐ。朝食後の午前中、様子を見に来た助産師さんから、誘発分娩の勧めを受ける。お腹に巻いた機械で陣痛の強さは数値でわかるようになっている。それによると、それまでの時間で20分おきくらいに時たま来ていた、かなり強いと感じた痛さが3分置きに途切れずに来るようでなければ分娩につながる陣痛ではないのだということ。なんか、ディープ……。説明に納得し、誘発することにして、点滴をされつつ昼食を取る。前夜からてるちゃんも一緒に寝泊りしている。
 点滴の効果で陣痛がつきはじめる。お腹に巻いた機械の数値がゼロになり、10→30→50と上がってくると陣痛が来るサインで、本当に痛くなる。機械って凄い。最初の頃は呼吸法で逃せるような痛みだったのだが、そのうちてるちゃんに背中を押してもらわないと耐えられなくなり、とうとう分娩室に移って良いとなったときには、その前にトイレに行きますとトイレに入ったものの、痛すぎて何もできずに出てきたか出て来れないかして、分娩室に歩いていけるか聞かれて無理と言って、そこから車椅子に乗せられて部屋を出たところからエレベーターで階を移動して分娩室に入ってその後生まれるまで、もう辛過ぎて大体目を閉じていたのと、あとは毎回の陣痛をやり過ごすだけになって苦しみ続けていたのでほとんど何も見えてない。誘発から生まれるまでは7時間だったんだけど、分娩室には何時間いたんだろう?
 でも色々なことがあったらしい。まず、私が相当苦しむので(叫んでる。うるさい)、帝王切開するかしないかという話になってきた。寝た姿勢だとあまりにも苦しいので座った姿勢にしてもらったら陣痛は楽になったものの陣痛自体弱くなって、子宮口も開きが悪くなった。てるちゃんが先生に説明されて、帝王切開するなら準備はできているけど、赤ちゃんもお母さんもまだ元気で、お医者さんからすると今すぐ切らなきゃ危険とかということではない、他にも方法がいくつかあるから試してみようということになって、(私に聞いてももう無理切ってくれ〜というだけだから、てるちゃんとと相談してた)子宮口を開く筋肉注射を打って、誘発剤を足して……としてたらわりと早めに、もう息んでいいと言われて、そこから何度か頑張ってたら、生まれた。赤ちゃん、でかいこともあり軽く回旋異常だったみたいで、吸引分娩をするってことで、息んでいるときは赤ちゃんの頭にカップをくっつけて引っ張って、お腹を押されたり、出口はもちろん切られたし何人もがかりでよってたかられて、生まれた。時刻は7時3分、体重は3630g。
 生まれた後は胎盤も普通に出てきて、お医者さんが傷を縫ったりしているときは赤ちゃんをお腹に乗せてもらってたので、縫われたりされている方に意識を向けるのは痛いし怖いので、てるちゃんと一緒に、かわいいね〜やった〜とかハイテンションにしゃべり続けてた。しばらくその場で寝たままでいなければならず、その間は分娩室の外に居た母も入ってきて、話したり写真を撮ったりとかした。部屋に戻っていいことになって、まず分娩室のトイレに入ろうとしたらふらふらで大変。部屋に戻ってきて、夜7時に生まれたのでまだ夜9時までの面会時間内だったから、母とてるちゃんも居て、私はベッドの中で横になってて、いろいろ話したんだけど頭もぼんやりして、貧血かなんかでふらふらしているし、頭の中が一種のショック状態で、離人感も強くて、口では受け答えしてるんだけど本当には入ってきてない感じだった。面会時間が終わって1人になって、いつもの自分じゃないのが怖くて、夕食をとっといてもらっていたのを、もちろん食欲はないんだけれども、早く元に戻りたいと思って一生懸命食べたけど半分も食べられなかった。本当に頭が真っ白になっていていつもの自分じゃないのが怖くて、どこか別の世界に行っちゃいそうな気がした。現実世界とのつながりを保っていたくて、一晩中テレビを点けたままにして眠った。テレビの中はオリンピック一色。